第66章 和
「ん……ッ!」
みわ、どうしたんスか?
濡れた音が、静かな室内に響く。
無理矢理抱き寄せた身体が熱い。
「……ゃあ……」
腕の中のみわは、右手1本でオレの胸を押し返そうとしている。
そんなのは御構いなしに腰を密着させると、更に奥を探るように、舌を口腔内に這わせた。
「ん、ぁ」
みわの身体はピクンピクンと反応している。
感じてくれている、はず。
触れ合っている唇は熱い。
それなのに、みわをとても遠くに感じる。
「…………や……ッ!!」
「……っ」
ガリッという感触とともに唇に鈍痛を感じ、渾身の力を振り絞ったと言わんばかりの勢いで、みわはオレを突き飛ばした。
「……みわ」
噛まれた部分から、じわりと口の中に血の味が広がっていく。
「や……やめて。これ以上、考えたくない」
「どうして? みわ。ちゃんとオレに謝らせてよ、今までのこと」
「も……分かったから。お願いだからもう、その話はしないで」
こんなに頑なに拒み続けるみわは初めてで、正直どうしたらいいのかが見当もつかない。
……いや、あきサンとの時にも、似たような状態になっていた気がする。
みわ、本音を隠したいんスか?
それとも……
「もう、オレの事嫌になった?」
みわはふるふると首を横に振る。
小さな唇を僅かに開き、オレに聞こえるかどうかの音量で、呟いた。
「そうじゃ……ないの……でも……もう、大丈夫だから、もう」
その懇願にも似た言葉に、胸がどうしようもなくギュウと締め付けられた。
オレは、みわを傷付けていたんだ、ずっと。
オレが気付いていないところで、傷付いてた。
こんなにオレの事を想っていてくれている、大切な大切な子を。
「みわ……ごめん……」
その細い身体を包むように抱きしめた。
「だから……私たち……しばらく距離を置きたいの」
腕の中から聞こえたのは、何かを覚悟したような声だった。