第66章 和
「あの後すぐ生理も来たの……ごめんなさい。みわちゃんも、黄瀬君も、ごめんなさい。
部屋に行ったり、今はわたしだけを見てくれてるんだって勘違いして、調子に乗ってた」
「……ウソ、だったんスか……」
「ごめんなさい……」
「いや、オレはいいんスけど……」
ちらりとみわの様子を伺う。
特に動揺している様子はないけど……。
「わたし、黄瀬君の部屋になんて泊まってないから。相談しにお邪魔した事はあるけど、すぐに帰ったし……」
「うん。キオちゃんが困っているような状態じゃないなら、良かった」
みわはそうとだけ言って、それ以上は追及しなかった。
「……」
オレも、誰になんて言ったらいいのかを迷ってしまう。
「あの、それだけ言いたくて。本当に、ごめんなさい」
「うん、話してくれてありがとう、キオちゃん」
「……ふたりで話す事もあるだろうから、わたし先に帰るね」
「駅まで送るよ」
「大丈夫、一本道だったから覚えてる! みわちゃんは、黄瀬君とお話して!」
キオサンもみわのその落ち着きようを不気味に感じたのか、早々に去って行ってしまった。
「……みわ、なかなか話せなくてごめん」
「ううん、事情があったんだもん、仕方ないよ」
「それで、スズサンと休養日に過ごしたのは……キオサンの事の、口止めって言うか」
「そうだったんだね」
みわは、さっきから全く感情が乱れない。
以前、あきサンとの事で誤解された時は、あれだけ嫉妬して泣いていたのに。
なんで?
この違和感はなんスか?
「みわ、怒ってる?」
「怒ってないよ」
怒ってよ、なんで私以外の女とって、怒ってよ、みわ。
「嫉妬した?」
「してないよ」
そんなワケ、ないっスよね?
なんでそんな事言うんスか?
「ねえ」
「もうやめよう」
「……え?」
「もう、私は大丈夫だから。この話は終わりにしよう」
そう言ってみわは既に冷めているであろうお茶を口にした。
もうこの話はしたくないと言うように。
「涼太も、もう帰らないと遅く」
「みわ」
無理矢理みわとの距離を詰めて、唇を重ねる。
あのデート以来、久々の感触にクラリと脳が痺れる感覚がした。