第66章 和
「みわちゃん、黄瀬君、今日の練習後……時間、いいかな」
キオサンのその相談を察したみわは、みわの部屋での集合を提案してくれた。
しかしお祖母さんがお茶を運んで来てくれた後もキオサンは考えあぐねている様子で、まだ一言も発していない。
「ごっ……ごめんなさい……!!」
ようやく口を開いたと思ったら、出てきたのは懺悔の言葉だった。
それじゃあ、何について謝ってるかが全然分からないんスけど……。
「何があったの、キオちゃん。
妊娠って……」
「に、妊娠したっていうのは、嘘なの!」
「……え?」
キオサンの発言に、みわよりもオレが先に返事をしてしまった。
「はっ……春の合宿で……黄瀬君にフラれて……自棄になって、大学生と……したの」
みわは、少し驚いたように目を見開いただけで、返事はしなかった。
「そこを、たまたま黄瀬君に見られて……もう、何もかもどうでもいいやって思ってたら……暫くしても生理が来ない事に気付いて」
キオサンの手が震えている。
嘘って、どういうことだ?
「それで、もしやと思って、黄瀬君にしか相談出来なかったから……相談して……。
黄瀬君が気を遣ってくれて、なんでも手伝ってくれたり、一緒に居てくれるのが嬉しかった」
「……」
「病院に行って、調べて貰ったら、妊娠はしてなくて……。
でも、病院の外で待ってくれている黄瀬君に本当の事言ったら、もうこうやって心配してくれる事はないんだって、そう思ったら……嘘、ついちゃってた」
「き、キオサン、それって」
「妊娠して、私が不安だと思ってくれてる黄瀬君は本当に優しかった。
手を繋いでくれたし、抱きしめて貰ったりもした」
ちょっと待って、みわの前でそんな事まで言う必要は……
「うん……それは、知ってた」
え?
知ってた?
まさかのみわの発言に、オレもキオサンも驚きを隠せない。
「あの日……涼太に会えないかと思って、寮で……待ってたから」
なんだって。
そんな事、一言も言ってなかったじゃないスか。
でも確かに、中庭で手を繋ごうとした時の反応は少しおかしかった。
オレの部屋にも、来なくなった。
あれを見てたの?
また、ひとりで溜め込んでたんスか?