第66章 和
……昨夜、みわからの連絡はなかった。
オレもなんと声をかけてあげればいいのかが分からず、連絡出来ずにいた。
ちゃんと眠れただろうか。
いや、普段から不眠症気味の彼女が、昨日のあの状態で眠れているわけがない。
監督は暫く部は休ませると言っていたけれど、大丈夫だろうか……
毎朝のロードワークを終え、その足で部室に入る。
汗をかいたシャツだけは新しいものにして、ひとりでできるストレッチをしてから体育館に向かった。
既に体育館からはボールの音がする。
中村センパイだろう。
いつも、ロードワークの途中に登校する姿を見かけているから。
「オハヨーゴザイマス!」
もはや習慣的にそう言って体育館に足を踏み入れると、高く可愛らしい声が返ってきた。
「おはようございます!」
おや、スズサンが今日は寄って来ないな。
いつもは「黄瀬先輩、今日も素敵ですね」とかなんとか言って、今やってる仕事も放って向かってくるのに。
そう思ってスズサンの方を向いて驚いた。
スズサンがやっているのは、中村センパイの練習の記録付けだ。
「こんなの、必要性を感じません。必要なら、神崎先輩がやってください」とかなんとか言って、自分は絶対にやらないと言い張っていたのに。
更に彼女の横にはみわが立っている。
一体、何が?
「おはよ、みわ。……練習出て、大丈夫なんスか」
そっと近寄って、みわに話しかける。
スズサンは集中していて、オレが来ても見向きもしなかった。
「うん、ギプスでちゃんと固定されてるから、痛みはないし大丈夫。心配かけて、ごめんなさい」
そう答えたみわは、昨夜別れた時のように放心状態ではなく、ちゃんと意志を持った目になっていた。
「今、私に出来る事をする。だから黄瀬くんは、プレーに集中して」
力強い微笑みだった。
オレが惚れた女の子はこんなに強かったのか。
オレの後ろで守られてるだけの子じゃなかった。
一緒に並んで、同じ方向を向いていける女性。
惚れ直したっスよ、みわ。