第66章 和
「ご馳走さまでした」
「はい、お粗末様でした。お茶でも淹れようか」
「ありがとう。……おばあちゃん、私明日から、朝練はいつもより早く行こうと思うの」
コポコポと、電気ポットから急須へ落ちるお湯の音が心地よい。
フタをして少し蒸らした後、湯呑にお茶を注ぎながらおばあちゃんは怪訝そうに眉を顰めた。
「今朝は陽が昇る前から行ってたじゃない。そんなに早く行かなきゃいけないの?」
「……明日からは無理がないように、始発で行く。片手でも、時間を掛ければ出来る事っていっぱいあると思うから」
「怪我してるんだから、みわがひとりで頑張ることないじゃない。誰か、他に周りに頼れる人はいないの?」
「でも……迷惑、かけたくないから」
温かいお茶が、疲弊したこころにじわりと沁みた。
翌朝、始発電車に私は乗っていた。
朝が早いというのにおばあちゃんは起きて朝ご飯を作ってくれた。ありがたい。
おばあちゃんだって決して自由な身体ではないのに。
早く怪我を治して、元通りに動けるようにならないと。
電車を降り、ホームを歩いていると少し前に海常の制服が見える。
おまけに女子だ。
こんな時間から、朝練だろうか?
何部の子かな、なんてなんとなく考えていたけれど、学校も目前となって距離が詰まると、その背中が見覚えのあるものである事に気付いた。
「……スズさん?」
スズさんは振り向くと、驚いたように目を見開いて、それからバツの悪そうな顔をした。
「……おはようございます、神崎先輩。
監督の話だと、暫く練習はお休みするはずじゃあ」
「うん、監督からは休んだ方がいいって言われたんだけど、大事な時期に休んでいられないしね」
「そ、そう……ですか……」
彼女にしては珍しく、今日は歯切れが悪い。
「今日は早いんだね」
「……わ」
「ん?」
「……私にも、何か出来る事がないかって……」
そう言って耳まで真っ赤にした彼女。
こんな姿を見るのは初めてだった。