第66章 和
私、何をやっているんだろう。
自分の居場所は海常バスケ部しかないって、ここで頑張るんだって決意したばかりなのに。
おばあちゃんが敷いてくれた布団に横になり、見慣れた天井を見上げていた。
おばあちゃんが階段を上ってくる足音が聞こえる。
「みわ、ご飯出来たよ」
「……ありがとう、でも今は……」
「……みわ、ちゃんと栄養を取らないと治るものも治らないよ」
「……」
おばあちゃんが去っていった後も、身体は動かない。
ああ、終わったな……
片手ではテーピングもマッサージも出来ない。
それどころか、普段行っている記録付けですら、片手では難しい。
雑用だって、ひとりで出来る事が激減だろう。
こんな状態では、選手達も私を頼るどころか、迷惑をかけてしまう。
悔しい。
悔しい。
それなのに、涙が出ない。
別に泣きたいわけじゃないけれど、胸に詰まったものが出て行かないこの感じが苦しい。
最近無意識に抑え込んでいた感情が、胸の中で脈打つように拍動を繰り返しているようで。
なんだろう、このひりつく感覚は。
呼吸の仕方を忘れてしまったみたいに苦しい。
大切なものが、自分の手の中からさらさらと零れていく感覚。
こんな、不注意が原因の怪我なんかで失うなんて……
怪我……
空虚なこころの中に、きらりと光るひとが浮かんだ。
涼太。
去年のウィンターカップ、彼はどうだった?
壊れた足で最後まで諦めずに戦う姿。
このチームが好きだからと、今行かなければ後悔すると、そう言って戦い続けたエースの後ろ姿を私は一番近くで見ていた。
彼は一言でも、諦めるような言葉を吐いただろうか。
試合終了まで、その足を止めただろうか。
彼の姿が鮮明に思い出されて、胸のつっかえが溶けていくような感覚に囚われる。
そうだ。諦めるのは、まだ早い。
今の私にだって、今の私にしか出来ない事がきっとあるはず。
今まで繰り返していたため息を止める。
"ため息ばっかりついてると、幸せが逃げちゃうっスよ"
あのキラキラした太陽みたいな笑顔を思い浮かべて、大きく深呼吸をした。