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【黒バス:R18】解れゆくこころ

第66章 和


私、何をやっているんだろう。

自分の居場所は海常バスケ部しかないって、ここで頑張るんだって決意したばかりなのに。

おばあちゃんが敷いてくれた布団に横になり、見慣れた天井を見上げていた。

おばあちゃんが階段を上ってくる足音が聞こえる。

「みわ、ご飯出来たよ」

「……ありがとう、でも今は……」

「……みわ、ちゃんと栄養を取らないと治るものも治らないよ」

「……」


おばあちゃんが去っていった後も、身体は動かない。



ああ、終わったな……

片手ではテーピングもマッサージも出来ない。
それどころか、普段行っている記録付けですら、片手では難しい。
雑用だって、ひとりで出来る事が激減だろう。

こんな状態では、選手達も私を頼るどころか、迷惑をかけてしまう。

悔しい。

悔しい。

それなのに、涙が出ない。

別に泣きたいわけじゃないけれど、胸に詰まったものが出て行かないこの感じが苦しい。

最近無意識に抑え込んでいた感情が、胸の中で脈打つように拍動を繰り返しているようで。

なんだろう、このひりつく感覚は。

呼吸の仕方を忘れてしまったみたいに苦しい。

大切なものが、自分の手の中からさらさらと零れていく感覚。

こんな、不注意が原因の怪我なんかで失うなんて……




怪我……

空虚なこころの中に、きらりと光るひとが浮かんだ。

涼太。

去年のウィンターカップ、彼はどうだった?

壊れた足で最後まで諦めずに戦う姿。

このチームが好きだからと、今行かなければ後悔すると、そう言って戦い続けたエースの後ろ姿を私は一番近くで見ていた。

彼は一言でも、諦めるような言葉を吐いただろうか。

試合終了まで、その足を止めただろうか。





彼の姿が鮮明に思い出されて、胸のつっかえが溶けていくような感覚に囚われる。

そうだ。諦めるのは、まだ早い。

今の私にだって、今の私にしか出来ない事がきっとあるはず。




今まで繰り返していたため息を止める。

"ため息ばっかりついてると、幸せが逃げちゃうっスよ"




あのキラキラした太陽みたいな笑顔を思い浮かべて、大きく深呼吸をした。




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