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【黒バス:R18】解れゆくこころ

第66章 和


「……すみませんでした」

スズサンが、深々と頭を下げている。

練習が終わる頃、みわとスズサンは病院から戻り、体育館に顔を出した。
キオサンは既に帰宅したそうだ。

やはり、事故の原因はスズサンが丈の長い布を足で踏み、階段を踏み外して転落したことによるものらしい。

しかし、みわが咄嗟に手を差し伸べなければ、スズサンももっと大怪我をしていただろうと言われていた。

結果、彼女の左手首は折れてしまったわけだけど。


みわのケガは全治3ヶ月。
3ヶ月。もうその頃にはIH本戦も終わってしまっている。

その診断は、IHの離脱を意味していた。

「仕方ないよ。スズさんに怪我が無くて良かった」

そう言ってみわは優しく微笑んだ。
左手には痛々しいギプス。

「先輩、どうしてわたしを助けようとしたんですか」

「どうしてって……分からないよ、助けなきゃと思ったからそうしただけ」

「……本当に、すみませんでした……」

散々嫌がらせのような事をし続けたスズサンにすら、みわは優しい。

オレだったら、どうしていただろう。

ふたりで会っていたと聞かされ、嫉妬の気持ちを抱きながら手を差し伸べられるだろうか。

「今日はお疲れ様、先に帰らせてもらうね。
……黄瀬くんごめんなさい、約束はまた改めて」

「え、あ、うん」

そう言って、みわはすっと体育館を去って行った。
スズサンはずっと泣きそうな顔をしている。

「ごめんスズサン、オレちょっとみわのトコ行ってくるから」

早川センパイにもそう告げて、彼女を追って走り出した。

あの身体では走れない。まだそう遠くへは行っていないはずだ。




全速力で校内を走り抜けると、校門へ繋がる並木道に、みわの後ろ姿を見つける事ができた。

きっと泣いているに違いない。

誰かが、オレが傍にいてあげなきゃ。

「みわ!」

追い付くまで待ち切れずにその名を呼ぶと、非常に緩慢な動きで彼女は振り返った。

「……りょ、た?」

その目に涙はない。
ホッとしたのも束の間、少し呆けているようなその表情に心配になる。

「みわ、大丈夫? 帰れる?」

いや、そうじゃない。
もっと気の利く言葉のひとつもかけてあげなければ。



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