第66章 和
「キオサン!」
昼休み、1階の購買部で買い物をし終わったキオサンを捕まえようと後ろから声をかけると、彼女が驚いたようにこちらを振り向いた。
「黄瀬君」
「ちょっと、話があるんスけど」
キオサンは、あれからオレに相談する事はあっても、決してみわには言うなという姿勢を貫いていた。
でも、これからIHもあり、夏休みもありとなったら、彼女も今まで通りでは済まないだろう。
身体もどんどん変化してくる時期だ。
早くみわには真実を話して、今晩ちゃんとみわのケアをしたい。
「……何?」
「あのさ、いい加減……」
そう言いかけた時、少し先にある階段上からみわが下りて来た。
「みわ」
中腹まで下りてくるとオレ達の存在に気づき、ハッとした顔をする。
暫く、何かを考え込むように止まってしまった。
「……キオサン、オレもうみわに言った方がいいと思うんスけど」
「えっ、黄瀬君それって」
「ずっと黙ってるわけにはいかないでしょ」
その会話がみわの耳に入ったのか、彼女は少し躊躇った後に、下りてきた階段を上り始めてしまった。
「待って、みわ!」
「黄瀬君、ちょっと待って」
制止するキオサンに構わず、みわを呼び止めた。
みわの足がピタリと止まる。
「……わたしが……言うから……」
キオサンはそう言って、階段を上り始めた。
彼女が言うというのなら、それが一番いい。オレはとりあえず口を挟むべきではない。
ふたりを見守ろうと決めたその時、オレの制服のシャツが後ろからクイッと引かれた。
「あの、黄瀬君」
「ん?」
聞き覚えのない声に振り向いた瞬間。
たった一瞬の出来事。
「スズさん、あぶないっ!!!」
「キャアアアアアア!」
背後から聞こえる、みわが叫ぶ声と甲高い悲鳴、ズダダダダッという激しい音。
「!?」
慌てて振り向くと、階段下で、今までそこで会話をしていたふたりが折り重なって倒れている。
その上に……彼女たちに覆い被さるようになっているのは、スズサンだった。