第66章 和
「おはよう、みわ」
「おはよう、黄瀬くん。
昨日、寝ちゃってて連絡出来なくてごめんね」
「いや、それはいいんスけど……」
みわはいつもの笑顔。
でも、昨日もコールバックはなかった。
避けられているんだろうか。
でも、彼女の表情を見ても特段そういう事は感じられない。
でも、この感じ……心ここにあらず、というか……。
いや、それも違う?
現にいま、笑顔で挨拶してくれたじゃないか。
マネージャーとしての仕事は完璧だ。
それはもう完璧すぎるほどに。
一見、いつも通りのみわ。
なのに、なぜだろう。
みわが、みわじゃないような感覚。
みわの中がからっぽになってしまっているような感覚がある。
「あ、黄瀬先輩おはようございます」
「スズサン、昨日の事みわに言った?」
「言おうとしたら、もうご存知でしたよ? 黄瀬先輩が話したんじゃないんですか?
全然焦った様子も怒った様子もなくって、普通の反応だったからつまんなーい」
……知っていた?
昨日、黒子っちがみわと会っていた事を考えると、黒子っちが言ったというのが自然か。
それなのに普通に振る舞って?
いや、違う。
普通そうに見えるからおかしいんじゃないか。
みわは、シューティング練習のボール渡しを行っている。
彼女らしく、記録をつけながら。
相変わらず、全く無駄のない動き。集中しているのが分かる。
練習が終わり、モップがけをする姿もいつもの通りだ。
……でもなんとなく、何かが起こっている気がする。
正体の分からない胸騒ぎに、思わずみわの肩を強く掴んで振り向かせた。
「ねえ、みわ。今日練習終わったら、オレの部屋に来て欲しいんスけど」
「え……?」
何を言ってるのか分からないと言った表情。
「お願い。来て」
みわが、手の届かないところに行ってしまう気がして。
みわは、不承不承と言った感じで小さく頷いた。