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【黒バス:R18】解れゆくこころ

第66章 和


今朝は、まだ電車が走り出す前から体育館に居た。

外はまだ陽も昇っておらず、一見夜だか朝だか分からない。

体育館の電気を点けると、何故だかホッとした。

ここが、私の居場所。




今日は普段時間がないと言い訳してたまにしか出来ないことをやろう。

まずは、バスケットボールのカゴを全て出して、ひとつずつ磨き出した。

クリーナーで磨いて、乾いた布で拭う。
無心になって、ひたすら繰り返す。

何も考えない。何も考えたくない。

感情にフタをするんだ。

私は、海常バスケ部の為に自分の力を使うだけ。

チームの結束を強めて、勝てるようにサポートするだけ。




「おはようございます、神崎先輩」

スズさんの可愛らしい声が背後から聞こえた時、ボール磨きももう終盤だった。

見渡すと、いつの間にか陽が昇って、辺りは明るくなっていた。

「……わ、凄い数のボール。どうしたんですか?」

軽く空気に当てて乾かしていたボール達がそこかしこに散乱している。

「磨いてたの」

素っ気なくそう返して、乾いたボール達をカゴに納めていった。

「先輩、聞いて下さいよ! 昨日、すっごく楽しかったんです!」

「プールに行ってたんだっけ? 良かったね」

自分でも驚く程、無感情な冷たい声が出る。

「あれ、黄瀬先輩に聞いたんですか? 情報早いですね!
夜遅くまで、1日黄瀬先輩を堪能しちゃいました!」

何も響かない。

悔しいとか、悲しいとか、どうしてとか、
あれだけ私のこころを蝕んでいた負の気持ちは、スッキリとなくなっている。

なんだか、ラクだ。

好きだとか、嫌いだとか、
そういう感情も思い出せない。

『私』という人間を、もうひとりの私が離れた所から見つめている、そんな状態。

一体これは、どうしちゃったんだろう。



「あっ、中村先輩だ」

「おはようございます、先輩」

「おはよう。おっ、ボール磨いてくれたのか、ありがとう。新品みたいだな」

そう言って先輩はボールカゴを押し、シュート練習を始めた。

私が磨いたボールが、キレイな曲線を描いてゴールに向かっていき、シュパッと小気味良い音を立てて、ネットに吸い込まれていく。

ひたすら、ひたすらその繰り返し。

その音を聞いていると、こころが落ち着くようだった。



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