第66章 和
ぶくぶくぶくぶく…………
「ぷ、はっ!」
危ない。危うく意識がブラックアウトしかけた。
お風呂に入って考え事をしていたら、いつの間にか鼻まで水没しており、息をするのを忘れてた。
考えなきゃいけない事……
涼太がキオちゃんやスズさんと恋人のように過ごしている事。
スズさんの話は、今日黒子くんから聞いただけだけど、キオちゃんのは……私も実際に目にしている。
あの調子だと、泊まって……涼太と寝た、というのも本当かもしれない。
でももうそれは当人同士にしか分からない事だし、考えないようにした。
涼太も、以前のようにふたりきりになる時間を積極的に作ろうとはしていないのが分かった。
何か、やましい事があるのかもしれないけれど、それについても考えるのはやめた。
考えるのをやめてしまわないと、私が保ちそうにない。
やめよう、考えるのは。
スズさんの事だって、何が本当か分からない。
……本当の事だって、もう知りたくない。
黒子くんの事は……正直に、驚いた。
今までだって何度も小説を貸し合ったり、メールしたりとかしていたけれど、そんな雰囲気を一度も感じた事はなかった。
からかわれているんだろうか?
でも、彼はそんなひとではない。
返事はすぐにしなくてもいいと言ってくれていたけど、すぐ……ってどの程度なんだろう……。
お母さん、これも、私のせいなの?
全部そうだと言うのなら、私がこころから純粋に愛されたいと思うのは無理な話なんだろうか。
……分からない。
もう、私の頭は考える事をやめてしまっていた。
考えたくない。もう、傷つきたくない。
それは、明らかな防衛反応だった。
お風呂を上がると、涼太からの着信履歴があったけど、掛け直すことはしなかった。
何を信じればいいのか、分からない。
今、私の居場所はあの体育館だけだ。あの場所だけは、嘘をつかない。
海常バスケ部が、今私にある唯一の居場所。