第66章 和
「な、なんでそんなに怒ってるんスか!? オレ黒子っちになんかした?」
なんだか、以前黒子っちに説教された時と状況が酷似している。
『キミは人の顔色を伺うのが得意の癖に、大事な人の気持ちを察してあげるのは上手くできないんですね』
「なっ……」
『ボクが怒っているのは、キミがみわさんを大事にしないからです』
「オレは、そんな……」
『どうしてみわさんをひとりにするんですか?キミの役割は、彼女をいつ如何なる時もひとりにしない事なんじゃないですか?』
「そ、そんな事言われたって、オレにも用事があるし」
『実際に会うかどうかという話じゃないんですよ。気持ちの面での話をしているんです。
例え会ってなくても、不安にさせないようにというのがどうして出来ないんでしょうか』
黒子っちの言葉は、いつも脳天にガツンと来る。
オレの役割は、みわをいつ如何なる時もひとりにしないこと。
分かってて、そうしているつもりだったのに、オレはきっとまたみわを不安にさせているんだ。
校内では寮にキオサンを泊めてヤッていたという事がウワサになっている。
否定も肯定もしないスタンスにしてからはそれ以上広がらなくなったけれども、あの規模のウワサなら間違いなくみわの耳にも入っているだろう。
それなのに、みわは一度もその事についてオレに聞いて来ない。
不自然すぎるくらいに、話をしなくなった。
また、あのウワサが広がった時期を境に、オレの部屋には一切来なくなった。
ふたりきりになる機会自体が激減。
みわは、ウワサを聞いて不安になっているのに平常心を装っているのが明らかだった。
それなのにオレは、ケアを十分にしてやれていないと思う。
みわのその態度に甘えて、いつか時期が来たら話せばいいと思っていただけだ。
その間のみわの気持ちなんて考えてやれてなかった。
『黄瀬君』
「黒子っち……いつもゴメン。でもホント、アリガト」
『敵に塩を送ったつもりはありません。ボクももう、本気でいきます』
「黒子っち?」
『黙ってるのはフェアじゃないですね。ボク、今日みわさんに告白しました。あとは、みわさん次第です』
どうしていつも、オレは間違えてしまうんだろう。