第66章 和
「……タダイマ」
誰も待っていない殺風景な寮の部屋に戻ると、鞄をベッドに放り大きくため息をひとつついた。
「……疲れたな……」
1日スズサンに引きずり回されて疲れた、というのもモチロンあるが、みわに何も言わずに1日出掛けたのが、ずっと気になっていた。
先に言うと、今日1日ずっと気にしてしまうかと思って明日言おうかと思っていたが、どことなく後ろめたい気持ちを抱き続けていた。
やはり、先に言っておけば良かった。
しかし、先に言うとなると、何故ふたりで出掛ける必要があるのかという説明をしなければならない。
そうなると、自動的にキオサンの話をしなきゃならなくなるワケで……。
いい加減、みわに隠していたくない。
キオサンはいつまでみわに隠しているつもりなのだろう。
……明日もう一度キオサンに話して、キオサンとみわと3人で話す時間を取るようにしてはどうだろうか。
もう、キオサンにだって時間がない。
決めるなら1日でも早い方がいいだろう。
再びため息をついて、スマートフォンを手に取った。
ため息は幸せが逃げていっちゃうんスよ、もー…。
『……もしもし』
彼は元々テンションが高い人間ではないが、電話口の声は更に元気がないようだった。
「あ、もしもし黒子っち? 今日はごめん、変な感じになっちゃって」
『デートは楽しかったですか?』
「いや、だからデートじゃねえんスよ。あれはウチのマネージャーで」
『水着姿で男女がふたりきりで一緒に居たら、デートじゃないんですかね』
「黒子っち?」
『もしそれをみわさんが見たら、どう思いますかね』
……"みわさん"?
更に、この怒気を含んだ声色。
「黒子っち? なんか怒ってる?」
『……キミがそんなにフラフラしているなら、みわさんはボクが貰います』
「フラフラって……してねぇっスよ! オレはいつでも一筋で……」
『言っている事と行動が伴ってないんですよ、黄瀬君。
……もうこれ以上話していても無駄のようですね。それじゃ』
「待って! 待ってってば黒子っち!!」
『……なんでしょうか』
覚悟を決めたような彼の口ぶりに、背筋がぞわぞわと粟立つのを抑えられない。