第65章 星空
「黒子くん、どこかお店に入る? どうしようか」
ふたりで少し喋りながら歩いて、もう繁華街からは外れた路地に入ってしまった。
「……いえ、時間も遅いですし、飲み物を買ってそこの公園にでも、どうですか」
黒子くんはそう言って、前方に広がる大きな公園を指した。
もう寒い時期でもないし、外の方が気持ちいいかも。
「うん、いいよ」
公園内に設置してある自販機で飲み物を買って、並んでベンチに座った。
黒子くんの白いシャツが、暗い中でぼんやりと光っているように見えて、深海生物みたいでなんだか不思議。
目の前にはフェンスに囲まれたストバスコートがある。
「……昔、学校の練習がない時や練習が終わってから、よくここで自主練をしてました」
「ここで? へえ、そうなんだ」
なんとなく、中学時代の黒子少年を想像して微笑んだ。
「じゃあ、黒子くんちってこの辺りなの?」
「そうなんです。すぐそこですよ。寄りますか?」
「ううん、黒子くんってご実家暮らしだったよね。もう遅いし悪いからやめておく」
「……そうですか、じゃあ次の機会にでも」
「? ……うん」
なんとなく、いつもと違う雰囲気。
何かあったのかな?
「……黄瀬君とも、ここで練習しましたよ」
「涼太と?」
中学時代の涼太は、バスケ雑誌で紹介されていた写真を見た事があるだけだ。
「そうなんだぁ……」
「"涼太"」
「あ、ごめんね、黄瀬くんって言った方が分かり易いよね」
「いえ、神崎さんのお好きなように」
「……?」
なんだろう、黒子くん。
今日は本当に、なんか変。
「今日、黄瀬君はどうしているんですか? 一緒じゃないんですね」
「ああうん、なんか今日は1日用事があるんだって」
「……用事、ですか……」
沈黙。
黒子くんはそう言ったきり、何も言わなくなってしまった。
「あの、黒子く」
そう言って彼の方を振り向いた私の視界には、先ほどまでの景色は映らなかった。
目の前に広がるのは、白い布の波。
これは、黒子くんが着ていた……シャツ?
気付けば、私は黒子くんの胸の中にいた。
「……黒子、くん?」
「神崎さん、好きです」