第65章 星空
「頼むから、もうこれ以上オレを怒らせないでくれ」
吐き捨てるようにそう言うと、彼女は歯噛みしながら悔しがっている。
頭の中が、火をつけたように熱い。
燻った気持ちが、胸の辺りで渦巻いている。
みわを抱いている時の高揚感とは全く違う。これは、怒りだ。
「わたし、黄瀬先輩にはわたしみたいな子が相応しいと、思ってます」
おや、随分素直。
知ってるっスよ、アンタがそう思ってるって事は。
スズサンはオレの浮き輪に体重をかけてくる。
「先輩は、この唇にキスしたいと思わないんですか?
身体に、触れたいと思わないんですか?
エッチな事したいって、思わないんですか?」
相変わらずあまりに素直にアピールしてくるもんだから、こっちだって素直に返そうと思う。
「思うか思わないかって言われたら、別に思わないっスね」
まあ、世の中には色んな男が居るとは思うけど、オレは惚れた女じゃないと欲情すらしなくなってしまったらしい。
みわ、オレをこんなカラダにした責任、ちゃんと取って貰うっスよ。
彼女は更に顔を近づけてきた。
「先輩、試しに1回わたしとキスしてみてください。クセになりますよ」
一体なんのお試しなのか。スーパーの試食?
唇と唇の距離が詰まっていく。
「スズサン、いい加減に」
「……黄瀬君?」
聞き覚えのある澄んだ声に、一瞬思考が停止した。
こんなにザワついている中なのに、彼の声はよく届く。
福田総合戦の時も、そうだった。
振り向くと、数人の集団がこちらを見ている。
誰も彼も見知った顔。
集団の中央にいて、今オレに声を掛けたのは水色の髪の少年。
隣にいる赤髪の少年も、よく知った顔。
「……黒子……っち……」
そこには、誠凛メンバーが立っていた。