第65章 星空
「せんぱーーーーい! こっちです! こっち!」
翌週土曜日、折角の1日休養日。天気は晴れ。
駅前では、デート服を身に纏ったスズサンが嬉しそうにこちらに手を振っている。
その姿を、道行く人がチラチラと見ている。
スズサンは黙ってそこに立って居れば見た目も悪くないし、別に彼女持ちのオレなんかにこだわらなくても良さそうなモンなんスけどね……。
ああ、今月は丸1日休みの日が多くて、浮かれていたのに……。
来月はその分1日休みがないけど、IH前だ、仕方ないっスね。
みわとの貴重な時間。
はあ、と大きくため息をついた。
あれからキオサンとふたりで話す機会も増えたが、やはり相手の男に言う決心はついてないようだ。
「オハヨウ」
「おはようございます!」
スズサンは朝早くだというのにウキウキだ。
つーか、なんでこんな早くから……。
「まだ6時半っスよ、スズサン……」
「えーだって、先輩とのデートだから、1日使いたいじゃないですか!」
「……んで、どこ行くんスか?」
「いいから、ついてきて下さい!」
もう嫌な予感しかしないが、行くと決めたのはオレだ。
腹を括って黙ってついていくことにした。
「……なんスか、ここ」
特に会話も弾まないなか、電車に揺られて1時間半ほど。
目の前には、ドーム状の大きな建物がそびえ立っている。
アルファベットの建物名の横には、波のシンボルマークがくっついている。
「知らないんですか? 去年オープンしたばかりの……」
「……温水プール?」
「正解ですっ!」
……そういえばそんなのをニュースで見たような見てないような……。
周りを見渡すと、家族連れやカップルばかりだ。
「オレ、水着なんて持って来てねぇんスけど」
「レンタルでいいじゃないですか! 色々な柄、あるみたいですよ!」
そう言ってスズサンに引きずられ、回転扉になっている入り口を抜けて中へと入って行った。
入り口で入場料を支払い、タオルやら水着やらを借りて中へ。
「お金出して貰っちゃって、すみません先輩」
「いいっスよ、別に」
甘ったるい声を出して擦り寄ってくるスズサンを鬱陶しく思いながらも、お互い更衣室へ向かって行った。