第65章 星空
「……で、何が言いたいんスか。
何言われても、相手はオレじゃない」
やましい事など何もないのに、スズサンの不敵な笑みを見ていると、何かまずい事が起きているのではないかという気がしてくる。
「でも、先輩が妊娠しているのは本当だわ」
「……」
「こんな事が学校にバレたら、どうなるのかしら。勿論、バスケ部も」
「……まさか、身内に脅される事になるとは思わなかったっスよ」
「いやだ先輩、脅すなんて人聞きの悪い。取引ですよ、これは」
キオサンだってまだ不安定だ。
更に、学校に知れたらどうなるかは分からない。
名門・スポーツ強豪校として海常高校がどう出るかは、オレが予想できる範囲を超えている。
「黄瀬先輩が私と付き合ってくれたら、キオ先輩の事は黙ってます」
思いもよらぬまさかの提案に、一瞬反応出来なかった。
「……ちょっとその取引、正気の沙汰とは思えないんスけど」
「私はいつも正気ですし本気ですよ。本当に黄瀬先輩のことが好きなんです、本当に」
「違うだろ。スズサンはオレの隣にいる自分が好きなんだろ」
スズサンの顔が強張ったのを、オレは見逃していない。
ここにもいた。本当に人を好きになった事がないヤツ。
……いや、もしかしたらオレたちの若さで本当に"好き"と思える人間に出会える方が、キセキなのかもしれない。
みわとの出会いはオレにとってはキセキ以外の何物でもない。
「悪いけど、オレはみわ以外とは付き合う気はないから」
「……どうやら、そうみたいですね」
オレの強い眼差しを見て、気持ちは揺らがないと判断したんだろう。
当然だ。ナメて貰っちゃ困る。
「じゃあ、キオ先輩の事、学校にも漏らしていいんですね?」
「それは困るっスね。バスケ部が活動できなくなったら、アンタも困るでしょ」
「私は全然。そもそも、バスケ部にそんな執着持っていないので。
最初から言ってますが、私は黄瀬先輩をフォローしたくてマネージャーをやっているんです」
この図太さは、少し見習わなきゃならないっスね。