第65章 星空
「キオサン、もう大丈夫?」
「うん、ありがと……」
みわよりも小柄な身体を離すと、キオサンは微笑んでいた。
良かった。さっきよりはずっと顔色が良くなってる。
「送るっスよ」
「ん、本当に大丈夫。おやすみなさい」
そう言ってスタスタと去って行ってしまった。
ここで追いかけない辺り、本当にみわに対する態度との違いに我ながら呆れる。
もしこれがみわだったら、絶対にひとりにするような事はないだろう。
……みわとは違う女性の身体の感覚が腕に残っている。
自分が求めているのとは異なる身体。
ああ、みわを抱きしめたい。
寮に戻ると、また例のサッカー部の彼らがニヤニヤしながらこちらを見ていた。
「お熱いねえ、おふたりさん」
まるで昭和のドラマだ。
「見てたんスか。悪趣味っスね」
「お前、もうひとりのマネージャーの子と二股かけてんの? 可愛い子だったよな」
「あれだろ、学年主席の秀才!」
「今あっちにお熱なら、神崎さん俺にくれよ~」
「俺でもいいぜ?」
そう言って笑うふたりの胸倉をおもむろに掴んだ。
「……ふざけたこと言ってんじゃねーぞ。オレの女はみわだけだ」
「ぐぇ、くッ、くるし……!」
ジタバタと虫のようにもがくふたりを、ゴミを捨てるかのように放った。
「ゲホ、悪かったって。でも結構もうウワサになってるぜ? 気をつけろよ」
余計なお世話だ、と吐き捨てるように冷たい目線を送ってその場を去った。
迂闊だった。
つい情に流されてしまった。
あんな所で手を繋いだり抱きしめたりするべきじゃなかった。
いくらキオサンを落ち着かせるためとは言え。
みわに見られなくて良かった。
詳しく説明が出来ない今じゃ、弁解もロクにできない。
とりあえず今は、みわの声が聞きたい。
電話をかけてみるけれど、出ないようだ。
お風呂にでも入っているのかな。
着信履歴を見れば、コールバックしてくれるだろう。
そう思ってベッドへ身を投げたら、意外と身体は疲れていた事に気付く。
いつもは固いと感じるスプリングも、今日は柔らかく自分の体重を受け止めてくれているような気がする。
布団の中に沈んでいくような感覚。
気付けばもう夢の中に入ってしまっていた。