第65章 星空
……目の前で起きている事は、一体なんなんだろう。
涼太が、キオちゃんと抱き合ってる。
無理矢理、じゃない。
今、涼太の方から抱きしめてた。
どうしても会いたいなって思って、お買い物に行ってるだけなら、帰って来た時に顔だけでも見れるかなって。
ちょっとストーカーっぽいとは思いつつ、部室に忘れた忘れ物を回収してから、寮の入り口で待ってた。
そうしたら、涼太とキオちゃんが手を繋いで歩いてくるのが見えて。
思わず、隠れてしまってた。
どうしてふたりが一緒に居るんだろう。
たまたまそこで会った?
それにしたって、手を繋いで……恋人同士みたいに抱きしめて、っておかしいよね。
ふたりはまだ抱き合ったままだ。
顔は見えない。
そのままキスでもされたらとても立って居られる自信がない。
もう見ているのが辛くて、その場を去った。
「あれ、神崎?」
駅に向かって無我夢中で走り続けていると、聞き覚えのある声に呼び止められた。
「中村……先輩?」
「どうしたんだよ、こんな時間に」
そうだ、中村先輩も寮に入っているんだった。
「あの、部室に忘れ物をしてしまったので、取りに……先輩こそ、お出かけですか?」
「ああ、ちょっとコンビニまで。帰り道、ひとりで大丈夫か? こんな暗い中」
「だ、だいじょうぶです」
先輩は特に他意もなく"大丈夫か"と聞いただけなのに、私の網膜には抱き合ったふたりの映像が再生されていた。
「……神崎?」
「あ、すみません、私なんで……」
手が痺れるような感覚に陥って、目からは勝手に涙が溢れていた。
「おい、本当にどうしたんだよ。黄瀬に声かけようか」
「いえッ、いいんです、すみません帰ります……!」
「神崎!!」
グッと手首を掴まれる感覚。
でもこの間の公園の男と違って、そんなに力が入っていない。
「待てよ、そんな状態でひとりにしておけないだろ」
「ホントに、大丈夫です」
お願い、今優しくしないで。
「俺、聞いてやるくらいしかできないけど、良ければ」
「っ…………、ありがとうございます、先輩。でも私、帰ります……!!」
甘える事も出来ない。
今、胸の中がぐちゃぐちゃすぎる。
中村先輩の手を振り払って、走った。