• テキストサイズ

【黒バス:R18】解れゆくこころ

第65章 星空


みわとの電話から1時間ほどして、キオサンは病院から出てきた。

「黄瀬君、お待たせ」

「どうだったんスか?」

キオサンはオレの隣に座り、胸にぽすんと頭を預け、小さく呟いた。


「……できて、た」

「え……」

正直、彼女の勘違いだと思っていた部分があったので、その答えにはかなり衝撃を受けた。

「黄瀬君、わたし……」

いや、狼狽えている場合ではない。
何のために第三者であるオレが付き添ってるんだ。
冷静に、相談に乗ってあげないと。

「とりあえずご両親に相談しないと。キオサンひとりでどうにか出来る問題じゃねぇっスよ」

胸の中にいる彼女を宥めるように、背中をさすった。

「オレ、マクセサンにも連絡取ってみるから。相手の男にも伝えないと」

「や、それはやめて!」

思いのほか強い語気で否定され、思わず怯んだ。

「どうして」

「べ、別に彼の事が好きだったわけじゃないし、わたしも……悪かったから……」

どう見ても彼女は正常な判断が出来ない状態だと思う。

「でも、金とかかかるし、ちゃんと相談」

「いいから! そのことはもう少し、考えさせて……」

「……っ」

そう言われてしまったら、勝手に連絡を取るわけにもいかない。
まずは、ひとりで現実を受け止める時間が必要なのかもしれない。

「……じゃあ、とりあえずもうこんな時間だし、送るっスよ。今日は帰ろう」

病院は学校や寮がある方向とは反対方向にある。
駅を抜けていけばすぐ反対方向だ。

駅……みわ、もう帰っちゃっただろうな。

後でもう一度電話して、ちゃんと謝ろう。

「黄瀬君……手、繋いでくれないかな……」

キオサンはさっきから少し不安定だ。
仕方なく、その小さな手を取った。

「ありがと……」

消え入りそうな声でそう言った後は、もう会話がなかった。

駅から見て、男子寮の方が手前に位置している。
まだ女子寮までには距離があるのに、キオサンは男子寮前で足を止めた。

「どしたんスか?」

「ここまでで大丈夫」

「いや、送ってくっスよ。もう暗いし」

キオサンは俯いたまま、顔を上げない。


「黄瀬君……抱きしめて……」

「……え?」

「……」

それ以上何も言わない彼女を見て、気付かれぬようにため息をつき、優しく抱擁した。

虫の声ひとつしない、静かな夜。

/ 2455ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp