第65章 星空
意外にもキオサンは、すぐに産婦人科を予約したようだ。
あれだけ検査薬を使うのを怖がっていたのに。
病院は、働いている人に人気の、夜まで診察をやっているところだった。
「……ごめんね黄瀬君、本当に」
「ん、いいっスよ。オレここで待ってるから」
病院は繁華街から1本裏道に入った所で、他に待っていられそうな建物がない。
仕方がないので、病院の前にあるベンチに座り、スマートフォンを弄っていた。
特に意味もなくあちこちネットサーフィンしていると、メッセージアプリの受信通知。みわだ。
自分でも口元が緩むのを自覚しながら、受信通知をタッチした。
"お疲れ様(^-^)
今、電話していい?"
最近、彼女が顔文字を使ってくれるようになったのが地味に嬉しい。
それも、バリエーションが多くないのがまたカワイイ。
ああ、この文章ひとつでこんなにドキドキできるとは。
返事をするのももどかしく、通話ボタンを押した。
『あっ……ありがとう、電話』
ワンコールもしない内に通話は繋がり、電話がしたいと言っていた癖に慌ててどもる。
……なんなのこのカワイイ子。
さっき別れたばかりなのに、もう会いたい。
今すぐ会いたい。
耳を澄ませば、電話の向こう側は少し騒がしい。
テレビ……の音でもなさそうだけど?
「どしたんスか、みわ」
別にどうもしなくたって、電話は大歓迎っスよ。
みわは気を遣って、頻繁に連絡はしてこないタイプだから。
『あ、あの……学校に忘れ物しちゃって、今取りに向かってるの。
……少しだけでも、顔……見れないかなって』
なんだって。
「あー……ゴメン今、ちょっと外に出てて」
『あ、そうなんだ? ごめんね、突然連絡した私が悪いね。お買い物?』
「うん、そんなとこ……」
ああ、折角の会えるチャンス。
キオサン、早く出てこねえかな。
いや、今行ったばっかりだろ、当分かかりそうだ。
当分かかるなら今顔を見に行っていいか?
でもあまりに不自然だな。
……散々悩んだ挙句、オレの悪い頭ではいい案が浮かばなかった。
『そっか、じゃあ、また明日ね』
「ゴメンネ。折角声かけてくれたのに」
『ううん、こちらこそ! おやすみなさい!』
通話を終了し、ガックリとうなだれた。
そんなオレを嘲笑うかのように、風が頬を撫でていった。