第65章 星空
「おはようございます!」
意気込んで体育館に入ったものの、まだ誰も来ていなかった。
「あら、無人……」
今朝はキオちゃんからメールが来ていた。
体調が悪くて朝練はお休みするって。
大丈夫かな……最近、少し元気がないようだった。
季節の変わり目で、体調を崩してしまったんだろうか。
もうすぐ、朝練一番乗りの中村先輩が来るだろう。
先にメインゴールを下げ、ボールのカゴを出しに向かう。
「おはようございます、神崎先輩」
「わっ、びっくりした」
倉庫の中には、既にスズさんが居た。
腕を組んで、何かを待ち構えているかのような表情。
「もう来てたんだね、おはよう、スズさん。気づかなくてごめんね」
「……神崎先輩、黄瀬先輩と別れたんですか?」
「へ?」
突然思いもよらぬ事を言われ、すぐには反応出来なかった。
「黄瀬先輩って、今はキオタ先輩と付き合ってるんですね」
「……私は、別れてないけど……」
「え、じゃあ浮気発見しちゃったのかなあ」
「何の話をしてるの? スズさん」
「だって、キオタ先輩が黄瀬先輩の部屋に泊まっていったって。
キオタ先輩の喘ぎ声も聞こえたって言ってました」
え……涼太の、部屋に?
涼太がそんな事するわけない、けど……
「洗濯物の中に、女性用の下着があったのも見つかったみたいですよ?」
「そんな情報、誰から?」
そんな根も葉もない話、鵜呑みにするわけにはいかない。
「何人もの情報を合わせて、です。
言っておきますけど、作り話じゃないですよ?
今までおふたり何があったかは知りませんけど、今回のはクロだと思いますよ、先輩。
なんかふたりだけの秘密もあるみたいですし」
スズさんは嬉しそうにそう言うと、軽やかな足取りで倉庫から去って行った。
「あ、中村先輩! おはようございます!」
スズさんの明るい声が聞こえる。
……え?
何、今の話は何?
「神崎、おはよう。ボール貰っていいか?」
キオちゃんが涼太の部屋に?
「神崎」
なんで
「おい、神崎って」
「あッ、おはようございます、先輩! ボールですね、すみません!」
「なんだ、凄い顔してるけどどうしたんだよ」
「いえ……!」
中村先輩の顔を真っ直ぐ見る事が出来ずに、足早にボールのカゴを押して外に出た。