第65章 星空
「……まだ検査薬使える時期じゃないんスか?」
確か、生理予定日の1週間後、とかだったか。
「……元々、不順気味だから……いつ使えばいいのか、分からなくて……でも身体の症状が、妊娠超初期っていうのに当てはまって……」
うーん、それは流石に困った。
アドバイスするにも、相談に乗るにも、まずはハッキリさせないとどうにもならない。
「もう検査薬は買ったの?」
「……買うのが、怖くて。恥ずかしくて……」
ま、まあそうだろうな……私服姿でもどう見てもキオサンは学生。
その姿で妊娠検査薬など買いに行ったら、店員からどんな目で見られるか。
「や、でもいきなり病院行くよりは先に調べた方がいいんじゃないスか?
オレ、薬局一緒に行こうか?」
「……いいの?」
「ま、流石に一緒に横に並んで選ぶわけにはいかないっスけど、一緒に行くくらいなら」
「……ありがとう……」
そう小さく呟くようにお礼を言ったキオサンと、夜の薬局へ向かった。
よく考えればこの時のオレの行動は軽率すぎるほど軽率なものばかりだったが、当時はオレも突然の事で混乱しており、全く気付いていなかった。
駅前のドラッグストア。
店の規模が大きく、いちいち来る客に構っていられない、とでも言い出しそうな空気がなんとも言えない。
こういう、放っておいて欲しい買い物をしたい時には、大型店というのはとても安心する。
検査薬は、女性用ナプキン売り場に陳列されているようだ。
ますます男が近付けない聖域だと判断し、店舗外のガードレールに座って待っていた。
「あ、あの……黄瀬涼太クン、ですよね?」
「そうっスよ」
近付いてきたのは見た事のない制服を身に纏った女子高生。
「あの、ずっとファンです! サイン貰えませんか?」
そう言って手帳を差し出してきた。
「応援いつもありがとう。どこにサインすればいいっスか?」
「あ、あの、じゃあ表紙に」
結局、表紙をオレのサインが飾る事になってしまった。
あの手帳はこの先1年間、あれでいいのだろうか……。
「黄瀬君、お待たせ。……買ってきたよ」
「ん、いこっか」
既に緊張に顔を歪めているキオサンを連れて、再び寮へと戻った。