第65章 星空
え?
その発言がすんなり耳に入って来ず、アホヅラをしているのが自分でも分かる。
妊娠?
誰が?
「ちょ、ちょっと待ってよキオサン、それって」
「……春休みの、合宿の時の……」
頭の中には、再生される映像がひとつ。
春休みの大学生チームとの合宿時、入り口近くの自販機コーナーでの出来事。
オレに振られて傷心だったキオサンが縋り付いた男。
まさか、あの時の。
「なんで? 危ない日だったんスか?」
避妊すらせずにああいう行為をしていたのだろうか。
「……わたし、初めて……だったから、そういうの、わ」
「黄瀬ーー!!!? どこだーー!!!」
その会話を遮るように、早川センパイの声が高らかに響いた。
「いけね、早川センパイだ」
「あ、ごめんなさい……時間取らせて……」
キオサンはますます小さくなっていく。
そうか、それで事情を知っているオレに相談してきたんだな。
きっと、不安なのだろう。
どうしてあげるのがいいか分からずに、軽く抱擁してあげる事にした。
キオサンは、耳まで真っ赤にして、俯いたままだった。
「……キオサン、今日の夜ちゃんと話そう?」
なあなあにしていい問題じゃない。
お腹の中に子どもが出来ているなら尚更、早い解決が必要だ。
まさか、そんな事になってるなんて……。
「うん、ごめんなさい……」
涙声のキオサンは、小さく何度も頷いた。
「激しい運動しちゃダメっスよ。身体、冷やさないようにね」
そうとだけ伝えて、彼女の肩を軽く押し、ふたりで体育館へと戻った。
「……何? 今の……」
ふたりとも、体育館裏の会話が聞こえる場所に小さな人影があるのには気づいていなかった。