第65章 星空
「おいキオタ、昼休み職員室にきなさい」
担任の声が響き渡る。
「……はい」
担任に返事をするとともに、残念そうな顔になるキオサン。
席を立つと、こちらに向かってくる。
「黄瀬君ごめんね、私から頼んでおいて昼休み……」
「ああ、聞こえてたっスよ。じゃあ部活前にしよっか」
「うん、お願い……」
「ていうか体調悪そうだけど大丈夫? 帰った方がいいんじゃないスか?」
なんだか顔色も悪い。
「平気、ありがとう」
そう言うと、教室を出て行ってしまった。
足取りはおっかなびっくりと言う感じで、安定しない。
相談、か。
そもそも女の子から相談されるのって、恋のどうこうとかくらいしか考えられないんスけど、なんだろ?
キオサンは真面目なタイプだし、オレにそういうの相談するタイプじゃないと思うんだけど……。
(ま、いっか)
相談されてから考えよ。
終業のチャイムが鳴り、ホームルームを終えたクラスからガタガタと席を立つ音が響き渡る。
地獄のような授業から解放されるこの瞬間が好きだったりする。マジメに授業聞いて無い癖に。
「キオサン、どこにするっスか? 放課後は屋上とかにも結構人がいたりするっスけど……」
「あ、あの……着替えてからでいいから、バスケ体育館裏とかで、いいかな?」
「ウン、了解っス」
体育館裏とは、ますます告白だなんだの色が強くなってきたな。
しかし、彼女の想いは春休みにとっくに告白され、オレもちゃんとお断りしている。
本当に、あんなにも神妙な顔つきで、何の相談だろう。
「ごめんね黄瀬君、これから練習なのに」
ジャージに着替えてからふたりでこっそり抜け出すというのはこれ以上ないくらい不自然だけど、大丈夫だろうか?
夕陽が体育館裏のアスファルトをオレンジ色に染め、まるで世界がその色になってしまったかのように演出している。
「んや、いいっスよ。で、どしたの?」
キオサンはモジモジして俯いている。
……えっと……
「……なんか言いにくいこと?」
助け舟を出すつもりでそう話しかけたが、予想以上にビクンと大きく彼女の肩が跳ねた。
顔が真っ青だ。
「ねえ、気分悪いなら」
「……できちゃった、の」
「ん? なにが?」
「わたし……妊娠しちゃった……!」