第3章 海常高校
しまった……ついこんな時間まで魅入ってしまった。
目の前にある光景が、眩しすぎて。
いいなあ、チーム、って……。
ああやって人を信頼して、協力して……夢のことのように思える。
なんて考えていたら、あっという間にあたりは暗くなり始めていた。
こんなに時間を使うなら、電車に乗らず歩いて帰れば良かったのに!
本当にバカ。
バスケ部の人達はクールダウンをしている。
これが終わったら片付けをするのだろう。
そっと、その場を去った。
「あ、お前のファン、最後の子が帰ったな」
「こんな時間まで見てる子いたっスか?」
「ああ、そこの小窓からこっそり見てる子がいたぞ。あの子、今日のオリエンテーションで新入生代表だった子じゃないか?」
「! 神崎っちスか!?」
「そんな名前だったかな?」
「オレに何か用があったのかな……」
「珍しく、キャーキャーアピールするタイプじゃないみたいだな」
「五月蝿いアピールは、正直勘弁して欲しいっス」
帰りは無事に電車、乗れただろうか……
新入生オリエンテーション。
彼女が新入生代表の挨拶をするとは知らなかった。
壇上に上がった彼女は堂々としていて、朝、痴漢野郎に怯えていた子とは全く別人のような立ち居振る舞いだった。
佇まいは凛とし、伸びた背筋で原稿も何も見ずに真っ直ぐとマイクに向かっていた姿が、印象的だった。
「あれ、原稿暗記してたらしいぜ。
先生達が驚いてたよ。そんな生徒、未だかつていなかったって。
さすが首席、すごいよなあ」
正直、誰もが振り返るような美人ではない。
(まあ、オレは見た目はどうでもいいっスけど。
目も当てられないブスとかじゃなければ)
けれども、あの時は神崎っちから目が離せなかった。
彼女が見せた 強さ から、目を離すことができなかった……。