第1章 はじまりの冬瓜(風間仁)
俺は元々、他人の評価を気にしない性格だった。
三島家を滅ぼす、それが俺の全てだ。
だから、他の事などどうでも良かったはずだった。
だが、名前の言葉が頭から離れない。
この感覚は何なのだろうか。
三島平八と死闘を繰り広げても、その答えは返ってこなかった。
そうして、俺は今に至り、気力を失っているのだった。
「あーあ、また平八とやりあったのかよ。お前もよくやるよな」
声がする方を向くと、この感覚の原因である名前が救急用スプレーを持って立っていた。
何故、ここにいるのだろう。
正直な所、今は会いたくなかった。
平八とやった後、こんな所で休んでいるのがいけなかったのか?
俺が無言であるにも関わらず、名前はスプレーで俺を手当てしていた。
そういえば、他人が手当てをしてくれたのは久しい気がする。
手当てをする名前が、亡き母の面影と重ねて見えてしまった。
余計、自分で自分を呪いたくなった。
「あ、さっきルーティと話してたんだが、その時に近くを通っただろ?」
手当てが完了した辺りで、名前は口を開いた。
「あぁ。それがどうした」
俺は平然を装って返答した。
あまり、話を聞きたくない。
だが、そんな俺の期待とは裏腹に、名前は言葉を続ける。
「あー、あたしはその時あんまり気にしてなかったんだが……ルーティから話を聞いてたかもしれないって言われて、勘違いしてたら悪ぃから念のため言っとこうと思って」
「何をだ」
「いや、『冬瓜』の意味をさ」
「『冬瓜』は、”イイ男”という意味だろ?お前から見たら俺は『冬瓜』ではない。ただそれだけだ」
俺は何を言っているのだろうか。
これでは完全に八つ当たりだ。
自分の言動さえコントロール出来なくなっている自分にショックを覚えていた俺だったが、名前は呆れた顔で見つめていた。
「あー、ルーティも勘違いしてたんだけどさ、『冬瓜』は”イイ男”って意味じゃなくて、”駄目な男”って意味なんだぜ」
「は?」