第1章 BLUERAIN
「ここにいろ」
声が震えている。縋り付くように抱きしめる腕も。私の存在を確かめるように少しずつ力が込められていく。
「苦しいよ、大輝。ちょっと離して」
「…わりぃ」
少しだけ緩められた腕を掴んで横向きに体勢を変える。いわゆるお姫様だっこ状態だ。彼の頭に腕を回して胸元に抱き寄せる。子供をあやすようにふわりと頭を撫でた。
「心配しなくても私はどこにも行かないよ」
何度も何度も頭を撫でていると、少しずつ彼の身体から余計な力が抜けていく。震えも止まったみたいだ。
だけど私は手を止めない。彼は今日、私に甘えるためにここへ来たのだから。
普段の彼は自信家でワガママなオレ様だ。私の都合なんてお構いなし。けれど時々、こうして私に甘えにくる時がある。そんな時は大抵、彼の大切なものに何かあった時だ。彼にとって大切なもの。それはバスケと幼なじみ。バスケの方は強くなり過ぎてしまったせいで少しばかり情熱が冷めてしまっているようだけど、それでも捨てられずにいる。幼なじみはさつきちゃんというかわいい女の子だ。同じ高校に通っていて、バスケ部のマネージャーをしているらしい。ただのくされ縁だなんて言いながら、失うのが怖くて自分のものにできないでいるくらい大切にしている女の子。一度だけ二人で歩いているところを見かけたけど、随分とお似合いの二人だった。彼女には他に好きな人がいるそうだけど、実はそれは彼のことなんじゃないかと思っていたりする。彼女が本気で彼を取り戻しにきたら、私では太刀打ちできない。