第2章 今宵月が見えずとも
いつも寮から抜け出す時に使う窓から静かに荷物を置いて、そっと中へと入る。起床時間までまだ少しあるから着替えることはできそうだ。自分の部屋へ向かっていると、後ろから声をかけられた。
「十中八九そんなこったろうと思ってたケドよ、まさか本当に濡れて帰ってくるとはな」
「福井さん……すみません」
朝帰りの現場を押さえられたのがこの人で良かった。早く帰れと言ってくれたにもかかわらずこんな時間に帰ってきてしまったことに後ろめたさを感じつつ、安堵している自分がいる。
「いいから早く拭け。朝帰りがバレるぞ」
そう言ってタオルを投げてくれた。見れば雨の雫が足跡と共に点々と続いている。手早く髪と身体を拭くと、タオルを取り上げられた。
「洗って返します」
「バーカ、お前がオレのタオル洗ってたら間違いなく怪しまれるだろうが」
「……いいんですか?」
「しょーがねーだろ。その代わりマジバ5回奢れよ」
「ハハハッ、せめて3回にしてください」
「とりあえずお前は早く着替えろ。風邪なんかひいたら監督にブッ殺されるぞ」
「そうします。……福井さん、ありがとうございました」
「おう。、つかお前に礼言われるとかキモいんだよ」
そう静かに呟きなから自室へと戻る先輩の後姿に、オレは深々と頭を下げた。