第2章 今宵月が見えずとも
夜明けの少し前、隣で眠る彼女を起こさないようにベッドから滑り降りる。まだ湿っている制服に袖を通して、メモを一つ残すと彼女の部屋を後にした。鍵をかけるとそのまま郵便受けに滑り込ませる。雨はまだ止んでいない。それでもなんとなく傘をさす気にはなれなかった。雨の中アパートの階段を降りていく。そのまままっすぐ駅へと向かうつもりだったのに、何故か一度立ち止まってしまった。
振り返るな。
己にそう命じて、振り返る代わりに天を仰いだ。降りしきる雨が目に入り、視界が歪む。そこには灰色の厚い雲に覆われた空しかなかったが、オレはしばらく天を見つめていた。