第2章 今宵月が見えずとも
浴室から出てきた彼女と入れ替わりでオレもシャワーを浴びた。彼女が用意してくれたバスローブを羽織って浴室から出ると、ベッドに腰掛けている彼女が目に入る。もうとっくに冷めてしまっているカフェオレを飲みながら、ここではないどこかを見つめていた。
「シャワー、ありがとうございました」
そう言って彼女の隣に腰掛けると、ぎこちない笑みが返ってきた。
「ありがとう辰也君。カフェオレすごく美味しいよ」
彼女の膝の上に小さな箱がある。中身は確認しなくても察しはついた。このバスローブも箱の中身も、元はあの男の為に用意されていたものなのだろう。それはつまり、この部屋で、このベッドの上で彼女はあの男に抱かれていたということ。その事実がオレをたまらなく苦しくさせていた。彼女がカフェオレをすべて飲み干すタイミングを見計らう。