第2章 今宵月が見えずとも
「ごめんね、辰也君。ごめんなさい」
「オレは構いません。それより風邪を引きますから着替えて……すみません、オレがいると着替えられませんね」
1Kのアパートの部屋にオレがいては彼女は着替えられない。急いで荷物を持ち、部屋を出ようとした。
「待って‼︎」
突然大きな声で呼び止められる。彼女はまだ震えながら泣いていた。
「……行かないで……ひとりにしないで……そばにいて……」
すがりつくような声で懇願する彼女に、オレの中の何かがざわついた。彼女は続けて言う。
「お願いだから……ひとりにしないで……身勝手なのはわかっているけど…そばにいてほしいの」
「……それがどういう意味かわかっていますか?オレも一応男ですよ?」
「うん……だからごめんなさい。辰也君の気持ちを利用するみたいだけど……誰かにそばにいてほしいの。じゃないと私、何をするかわからないから」