第2章 今宵月が見えずとも
「福井さん、すみませんがオレは彼女を送って行きます。アツシ、すまないがいつもの所の鍵を開けておいてくれないか?」
「……わかった。寮監はなんとかごまかしておいてやる。そのかわり早く戻れよ」
「んー、めんどくさいけどいいよー」
「ありがとうございます福井さん。アツシもありがとう。……なつめさん、立ってください」
二人に礼を言って彼女を立たせる。抱えるように支えながら通りまで行って、タクシーを拾った。
彼女が暮らすアパートの部屋へたどり着くと、キッチンを借りた。お湯を沸かしている間に氷嚢を作りタオルで巻く。コーヒーを淹れてカフェオレを作り、彼女のところへ持っていった。
「なつめさんこれで頬を冷やしてください。それと、砂糖は幾つ入れますか?」
「……」
氷嚢は受け取ってくれたものの、返事は無い。仕方なく角砂糖を二つ入れてかき混ぜ、彼女の前に置く。彼女はしばらくカップを見つめていたが、やがてゆっくりと手に取り一口だけ口に含んだ。そしてゆっくりと飲み込む。一瞬遅れて頬を涙が伝う。小さく震えながら下を向き、なんとか聞き取れるくらいのか細い声で彼女は呟いた。