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ワールドトリガー 瞳に光を

第9章 知られてはいけない・知ってはいけない


「成る程な。」

 小さく頷いた風間は絵梨の腕を取り、走る。


「ちょっと! どこへ行くんですか!?」
「俺もお前も、先ほど緊急脱出して戦闘体には換装できない。お前が慌てたのはそういう事だろう。」
「それはわかるけど! なんで来た道を戻ってるの!?」

 逆走する風間に腕を掴まれ走らされる絵梨の頭の中は混乱していた。


「見つかったら困るという意味では、俺達の敵は今あのトリオン兵だけではないということだ。」


 どういうことかと絵梨が問う前に、風間は淡々と答える。


「時期に待機中の部隊が現着するだろう。密命を帯び、結果として戦闘体を修復している今俺達は戦えん。そして、この指令を他の隊に知られてはいけない。」


 成る程、と切羽詰まった状況にも関わらず、絵梨はきょとんとした顔で頷いた。よくよく考えてみたら確かにそうだ。
 いくら城戸司令派とはいえ、あそこまで執念深く近界民を嫌って襲撃を続ける人ばかりではないことは絵梨ですらわかり得るものだった。付き合いの長さでようやくわかるような複雑怪奇なものなのではない、もっと単純明快で、言葉の節々や、先ほどの戦闘時のように相対した時に刺さる攻撃の強弱、戦術など、そんなうっすらとしたものの中から導くことのできる、比較的わかりやすいものなのだろう。
 なんだかんだ言っても、最大手の派閥で尚且つ最も明確で過激な目的を持つもの達こそが一枚岩ではないということの表れだった。


「けど隠れられる場所なんてあるんですか? トリオンを辿って近づいてくるんじゃ……。」
「トリオン兵はバムスター1体のみ。……であれば早々にことは済む。ただ隊員にすら見つからなければいい。万が一にも見つかって、何故戦闘を拒否したのかどころか換装すらしていない事を突かれたら終わりだ。」


 息切れも感じさせない口振りで語る風間に、絵梨もまた同意した。
 窓ガラスのヒビが過去の戦闘を思わせる、古い民家の庭の片隅で、膝を折る風間に絵梨も合わせる。生け垣のほんの小さな隙間からトリオン兵がいた方角を確認するが、その姿はもう既に他の民家の影に隠されていた。
 トリオン兵が距離を詰める前に行動を始めた甲斐あって、敵が接近する様子はなかったものの、市街地に向けて徐々に歩き出したトリオン兵をただ見つめるだけの時間がどこか悔しいと、絵梨はぐっと指先を手のひらで丸め込んだ。
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