第9章 知られてはいけない・知ってはいけない
「未来が見えるからと、常に周りに意識を散らす事が間違っているとは言わん。だが、未来は未来。まだ起こってもいない事を参考にして現在殆ど実態の知れない相手をこうも容易く懐に入れていいものなのか。」
そんな風間の言葉を聞いて、絵梨はふっと笑う。
「何も可笑しなことは言っていないと思うが?」
「いえ、そうじゃなくて。なんだかんだ言って迅のこと、心配してるだけなんだなってわかったから。
変に遠回しにしてる感じがして素直じゃないんだなと。」
「……。」
風間の前では初めてかもしれない柔らかな笑みを見た風間は視線を逸らしてまだ黙り込む。
照れる風間を横目に絵梨もまた前を向き、足を進めた。
けれどそれも、数歩歩いたところでやめた。
「よりによってこのタイミングなの?」
突然深刻な顔つきになる絵梨に疑問を覚えた風間も足を止め、様子を伺う。
「止まらないで。早く先に進みましょう。」
「待て。」
「いっつぅ……。」
「はぁ。」
慌てて動いて頭をぶつけた絵梨に一つ溜息をつく風間。
しかし絵梨はそんな時間すら惜しいとでもいうように、頭を抑えながらも先を急ごうと足を速めた。
「急にどうしたんだ。」
二人の間に空いた感覚を小走りで埋めながら、風間は絵梨に問う。
「今来られると困るからに決まってます。」
なんの話だと風間が言う前に、その答えはやってきた。
バチバチと音を立て、夜空を破る異界の闇が上空に広がり、そこから異形の白い姿が少しずつ姿を見せていた。
『門発生。門発生。ボーダー基地より全市民に通達します。
警戒区域内に門が発生します。近隣の皆様は注意して下さい。』