第9章 知られてはいけない・知ってはいけない
「……。」
「……。」
二人分の靴音だけが残る、荒廃した町の中。
互いに口を開こうとしない。そんな素振りすらない。
静かで、何も含んでいないはずの空気が何故か重く、そして乾いていた。
「そういえば……」
先に耐えられなくなった絵梨は苦し紛れに話題を探した
「あの後、太刀川さんと迅とで何を話したんですか?」
「迅が上層部に何を提案したのか、そしてそれは何故なのか、今後どうするか、と言ったところか。俺には全く理解できなかったがな。」
「そう……なんですか。」
理解できないからなんだというのか。そんな喧嘩腰の嫌味な言葉が喉に引っかかる。
咄嗟に引っ込めてぎこちない返事しかできない絵梨を横目に、風間は少しだけ話し始める。
「自分と同じ体験をさせたいらしい。ランク戦で、仲間同士で技を見せ合い、強さに磨きをかけ、互いに健闘し合うそれら全てに楽しさを感じていた。それを自分の後輩にも教えてやりたいというところか。」
「……そっか。」
絵梨は心の片隅で、ほんの少しだけ迅を見直した。
考えてみれば迅の行動のほとんどは誰かの為のものでしかなかった。何が彼をそうさせるのか、その真意を予想出来るほどの相手ではないものの、多少なりとも信用してもいいのかもしれないと、少しずつ思い直す。
けれど、そんな絵梨の心中とは真逆に、風間は躊躇なく吐き捨てた。