第8章 真逆と決定付けるもの
『カメレオン』
隠密行動に適したトリガーで、発動者の姿を周囲の景色に溶け込ませる事で奇襲に適した効果をもつ。
風間隊が好んで使用するということは、絵梨は迅から既に聞いていたが、実際にこの至近距離で発動されたのは初めてだった。
絵梨は敵の姿が消えたというのに慌てず冷静……それどころか微動だにせず、じっと風間の出方を伺っている。
異様な光景ではあるものの、そんな絵梨の反応の正体をじっくり考える時間も惜しく、普段通り粛々と事を進めていく。
「くっ……」
素早く背後を取り、姿を見せると同時に二本の光を絵梨の首と腹部に向け走らせる。
2箇所への同時攻撃を防ぐすべを持たない絵梨に対して有効な攻撃の一つだ。
首元への攻撃をシールドで防ぎつつ後方へ下り、腹部への切り傷も浅くするが、風間の攻撃は止まない。
「身内間の争いに関与するお前ではなかったはず。一体何を考えて俺達の前に立ち塞がるんだ。」
攻撃の手を緩めずにそう零す風間に、怪訝な表情を浮かべる絵梨。
それが劣勢のためなのか、言葉の意味を捉えられないためなのかはわからない。
けれどこの場面、この状況で聞かれることに何か意味があるのではないかと察しながら、答えるべき回答を探し始める。
「お前は……」
「……?」
「お前は近界民を嫌っていた。静かな怒りだったが、恐らくは三輪以上に。多少会って話しただけの近界民をそれ程まで庇う必要があるのか?」
風間の表情は変わらず冷たかった。
熱が彼を拒むようにも感じられる、寂しげな冷たさ。
「きっと風間さんには分からない。分かってもらえるはずもない。」
鋭い一閃が絶え間なく襲いかかるこんな時、余裕はあるはずもない。
けれど絵梨は風間のその意味ありげな冷たさに一つ、言葉を差し出した。
答えにはなっていなかった。それでも言いたげにしていた。
風間のペースに乗せてはいけない。その上でこれ以上攻撃を受けまいと下がり続ける絵梨。
「わわっ……!?」
そこで小石に気付かずに躓き、尻餅をついてしまう。
その隙を逃さず狙う風間のスコーピオンをなんとかライトニング本体で押さえ込み、鍔迫り合いを持ち込んで見せた。
「私は、近界民が憎い。あいつらを滅ぼせるなら命だって惜しくない。だからまずは守りたいものを守る。それが出来ないなら私はあいつらを絶対倒したり出来ないから。」
