第8章 真逆と決定付けるもの
「…どういう事だ。」
風間は少し苛ついている。
そんな悠長に話している時間はないはず。それは互いに理解しているのに。
スコーピオンを強く握り締めてはいたが、刃先は完全に地面と見つめ合っていた。
「何が?」
「何故トリオン供給器官を狙わない」
「狙ったよ。風間さんが咄嗟に着弾先をずらしたんでしょ。」
「ふざけるな。そんな誤魔化しは効かない。」
「……そういう事にしときなよ。」
納得がいかないまま、一方的な苛立ちを理性の内側に留め、風間は静かに息を吐き捨てた。
「今日、少しだけどボーダーという組織に触れて、限られた人達ではあったけど言葉を交わしてきた。けど風間さん、貴方だけが私を見る目が違う。それは何故?」
それは止まない雨の中でぽつりぽつりと1人うわ言のように放たれた率直な疑問だった。
けれど風間は何も答えようとはしなかった。
回答を拒んでいる様だった。
明確な答えを出してはいけない。明らかにしたが最後、この曖昧な全てが崩壊を始めてしまうと、そんな微かな葛藤すら垣間見えるような複雑な表情を見せていた。
その代わりとでもいうかのごとく何度でも刃を向け、絵梨を追い詰めようと攻め続ける。
そして絵梨もまた、簡単にはやられないという気迫の元、攻撃を受け流し、かわし、隙あれば銃弾を放つ。
2人の静かな執念と意地だけが、この空間の時を進めているようだった。