第7章 異例の弾丸
激戦が繰り広げられている中、その様子に見向きもしない影が一つ。
「内乱…か。」
いつの間にやらバッグワームを起動し、風に揺られながら目的地へと馳せる狙撃手としての姿を見せていた。彼女は一人。無意識に、けれど意味あり気にも捉えられる他愛も無い一言を空気中に晒した。
屋根の上をたんたんと踏み、走り、飛ぶ。
トリガーからの恩恵である身体能力をフルに活用しながら、気付けば情報を捉える手段が音のみに制限されていた。
「…イーグレット」
武器を持ち替えると、バッグワームも一度解除。グラスホッパーやテレポーターを駆使して移動スピードをあげる。空中で再びバッグワームを起動すると、絵梨が足を付けたのはとあるビルの屋上だった。
スコープを覗きながら、タイミングを見計らい、迅より伝達される聴覚情報に耳を傾けた。
______「予知のサイドエフェクトで確実にトリオンを削っている。」
真っ先に聞こえる風間の声。
絵梨は身を震わせた。
______「こいつの目的はトリオン切れで俺たちを撤退させる事だ。」
迷いなく己の見解を示す。
その場の全員が凍りついてしまうかの様。
勘付かれてしまった目論見。狙撃銃を握る手が熱くなっていくのが、絵梨自身にもわかった。
此処一番のタイミングで緊張している事が。
______「戦闘中に後始末の心配とは。随分見縊られているようだな。」
針を刺す様な的確な言葉。
そして、
______「風間さん、この人は無視して玉狛に向かいましょうよ。この人の相手をするだけ無駄。結局は迅さんの思う壺だ。」
菊地原がそう言った。
追い打ちをかける様にして転がり込んだ1つの提案。
その言葉で絵梨は目を見開いていた。
再びイーグレットを持ち直す。
静かに口角をあげた表情。
「…なるほどね。」
______「なるほど。やっぱりこうなるのか。」
次の瞬間、同じく迅が風刃を発動。
刃の根元から揺らめく光の帯が何よりの証拠。
光の帯は瞬きすら許さぬ速さで菊地原の首を刈り取った。
しかし、一同のどよめきにはもう一つの理由が存在する。
風を割いて走る銃弾の音が、聞こえる。