第6章 繋がる事はない
「絵梨さんは…自由に動いてください。」
その迅の指示には驚いた。
勿論理由はあった。
絵梨は近界で迅達ボーダーの人間が経験した事のない規模の戦闘を数多く経験している。
記憶が無くとも、その感覚は体に染みついている。だから敢えて自由な駒として浮かせ、臨機応変に対応させるというのが迅の思考だった。
「それ、作戦も何もないじゃない。本当にいいんですか?」
「ああ。絵梨さんは片付けやすい敵から狙えばいい。」
「…わかった。ただ、援護が欲しければ遠慮無く言って欲しい。」
「勿論そのつもりですよ。忙しそうでも使いますから。」
出会った時と同じ、少しだけ冗談交じりで楽しそうな迅の顔を前に、戦闘中にも関わらず拍子抜けしてしまう。
いや、戦闘中だからこそ、余裕を持って戦えるというのは、いい事なのかもしれない。
「そろそろ来るか。嵐山!そっちは頼んだ!」
「ああ。お前もな迅!」
そして長い夜が始まる。
射撃戦の音が、交差する剣の音が、暗躍する足音が聞こえる。