第6章 繋がる事はない
「とおやま先輩ねえ。」
一方玉狛では、絵梨に関する事柄が飛び交っていた。
「もしかして、近界民絡みでなんかあったの?」
空閑はそう問いかけた。
近界民である自分をあれほど警戒していた理由が気になったのだろう。
「忘れちゃってる。とは言っても、私達が勝手に教えていいものでもないわね。そもそも私達もそこまで詳しく聞いてるわけじゃないし。
ただ、木戸司令派に属していたって事は、まあそれなりの理由って事よね。」
マグカップを片手に一息ついて小南が言う。
湯気がふわりと漂い、揺れては消える。
当たり前の様であるものの、何故か其処へと視線が動く。
「絵梨さんはね、ずっと近界に居たのよ。ちょっと特殊な任務でね。近界民の動向を探るって今日まで2年間、近界に滞在してたの。」
「近界に住んでた?そんな任務があったのか。」
「特例よ。で、絵梨さんはそれを引き受けた。それ以降は本部のお偉方だけとしか連絡を許されなかったのよ。だから私達は声を聴く事すらも久し振りの出来事で。突然帰って来たんだから驚いたわよ。」
小南はそうしてマグカップを静かに置いた。
水紋が静かに揺れ動き、映し出された少し寂しげな表情の小南をかき消していった。
「まあ、絵梨さんが突然帰ってきた事には確かに俺達も驚いたし、初対面であるお前達が気になる気持ちもわかるが、他にやる事があるだろ。」
そこへ介入した烏丸の言葉を境に絵梨への疑問は一時的に途絶えた。
「そうそう。俺はこれから武器決めないとな。じゃあとりまる先輩、今度教えてよ。」
そうして空閑は訓練室に向かう。
絵梨がいない。絵梨がいる。その違いは何だろうか。
嘘と真実が絡み合う。それが解かれることがあるのか否か。今は誰も知る由も無く、静かに時が流れ行く。