第5章 一方的な再会

訓練室を退出する前、絵梨は空閑に話しかける。

「ねえ、私の名前だけど。」

「ふむ。」

「今はまだ教えられない。だから、仮の名前として、絵梨の名前を覚えておいて欲しい。勿論これが偽名だって言うのはみんなには言わないで。」

「別にいいけど。」

「助かるわ。ありがとう。"遊真"」

ひと勝負終えた後の二人は、何だか互いの疑念が少し和らいだ様で、敵意が剥き出しだった瞳も嬉しそうに揺れていた。

◇◆◇

「遠山さん、初めまして。僕は三雲修と言います。その、最後の攻撃って何があったんですか？」

訓練室を出て一番に聞かれた質問は、早速戦闘の事であった。
その彼の声色が、余りにも真剣だった為か、絵梨も何の疑いもなく答える。

「カメレオンで姿を現した直後にテレポーターで背後に回ったのよ。一瞬だけ相手の視界に入る事でそこに現れたんだと目の前に集中させるの。そうすれば後ろは隙だらけって事。」

「なるほど…僕にも出来るんでしょうか…」

「出来なくはないと思うけど、君のトリオン量だとあんまりオプショントリガー使い過ぎるとすぐに切れちゃうんじゃないかな…。」

「そうですか…あれ？僕のトリオン量知ってたんですか？」

「ゆ、遊真に聞いたのよ。」

「…そうみたいです。」

忘れていた仲間との安らかな時間。ここにも仲間はいる。それを知る事が出来ただけでも、絵梨にとっては収穫であった。

ここへ招いてくれた迅にまたお礼を言わねばと思う絵梨を他所に、外では何やら不穏な風が揺らぎ出す。

帰って初日早々、一波乱ありそうな予感が、絵梨の思考の片隅に静かに置かれたのだった。