第4章 見えない誰か
そうして会議は終了し、彼女は風間に呼び出されて二人で話を交わす。
「あの時はそういう理由で発した言葉だったのか。」
まず最初に切り出された言葉は、風間本人が導き出した結論。
最初こそ何の事だかさっぱりわからなかったものの、メノエイデスでの最初のやり取りだと思い出せば、それを肯定する。
「本当は知り合いだったんですね。すみません。」
そうして彼女は、会議中に少しずつ蓄積していた捏造設定を語り出す。
いつ、何処で、どの様に近界民に囚われたのか、また近界民に囚われる以前のこちらでの生活は全く覚えていないという事。
近界での生活も、覚えていないという事。
「これは推測ですが、近界で暮らしていた時も、度々記憶操作を行われていたのだと思います。いくら無茶をして帰ってきたと言っても、殆どの事を覚えていないなんて規模の障害が起こるとも思えませんし。」
風間はその話を、全く動じる事なく聞いていた。
その風間のあまりの冷静さには、彼女も驚かされたものだろう。
それがなんだか信用を得ていないというようにも捉えられる。
が、それでも言っておかなければならない。大切な事があった。
「…近界で見たトリガーの事は他言無用でお願いします。下手に怪しまれたく無いですし。面倒ごとになるのは御免です。」
「分かった。」
風間は何の迷いも見せる事なく承諾すると、彼女を背に、そのまま去っていった。
実際、迷いなどなかったのだろう。
"疑う"という事に対して。
「痛っ。」
自動販売機に頭をぶつけてしまいながらも、彼女もその場から離れた。