第4章 見えない誰か
「君は今まで、何処で何をしていた。」
中央に座る男性が、あくまで冷静に、しかし四方から圧を加えながら問う。
その質問の回答には、彼女も困っただろう。
近界から逃げてきました、という案件は殆ど無に等しいであろう事。信用されるかされないかで言えば前者である可能性が大半を占める。
しかし幸い彼女は、別の誰かと間違われているという事。
悠長に作り話を整える時間などある訳がない。
そこで彼女が選んだ選択は
「申し訳ありません。少々記憶が混濁している様で。」
記憶がない、という設定だ。
詳しい説明を問われれば彼女は、おそらく無茶な方法で帰還した為に記憶障害が起こったのでは無いかと答える。
即興で捏造した事ではあるが、自分が全く知らない誰かに成りすます事など不可能だ。
むしろ彼女には、この選択肢しか残されてはいなかった。
無理やりこの場を凌いだ様な感触は残ったものの、取り敢えずは納得させた様で、彼女はホッと肩をなでおろす。
その後彼女の今後の処遇について議題が移るものの、その決定は驚くほど呆気なかった。
「今までの点数をそのままに、正隊員として復帰する」