第3章 命懸け
続々と艇に乗り込む隊員達の様子を伺いながら、彼女はじっとその時を待っていた。
日向を忘れた風景に溶け込み、気配を隠して。
自分は近界民に攫われた人間で、帰るために乗せてほしいと頼んでも、見知らぬ者の言葉など誰が信じるだろうか。
どうせ人型の近界民の戯言程度にしか認識されないだろう。それは彼女自身も分かりきっていた。
それでも仲間が命懸けで逃がしてくれたこの身を元の場所へ帰すことは、同じ様に命懸けの方法だとしても成し遂げなければならない事だった。
全員が乗り込み、入り口が閉まったことを確認すると、大地を蹴り飛ばしながら遠征艇に真っ直ぐ進む。
そして彼女のトリガー〈雨の鎖〉(クローステール)で自身の身体と遠征艇の足元を固定する。
衝撃に耐えられる様にと繭のように全身を覆う。
玄界まで一体どれだけの時間がかかるのか、それは不明だ。
しかし短時間で思い浮かぶ方法はこの程度が限界であった。
浮遊感と風圧に晒されながらも必死にしがみつく。
絶対に帰ってみせると歯を食いしばりながら、時が流れていくことを強く願った。