第3章 命懸け
その後、彼の行く先に大きなトリオンの反応。
それは言うまでもない。
彼女が。いや、彼女らがずっと待ち望んで来た希望。
しかしその後が問題であった。どうやって乗り込むか。
事前の打ち合わせで、どう侵入するのか、それについては議題にすら上がらなかった。
皆帰れる喜びですっかり忘れていたのだ。
彼女自身も先ほどようやく気付いた様で頭を抱える。
近界民の疑いがある見知らぬ者を、簡単に乗せてくれるはずも無い。
最も重要な対策を立てていなかったのだ。
もし、ここに皆がいたなら、恐らく諦めるという選択肢もあっただろうが、帰還を託された彼女の中には選択肢すらない。
ただ一つだけの目的。その目的には義務感が強く滲み出ていた。
1人だけ助かったという罪悪感、元の世界に対する不安、玄界の人間への不信感。
大きな希望であったはずが、今となってはほんの一握りの希望と全ての負の感情が詰まった艇。
それを前にすれば、迷いを増幅させるかのごとく脳裏に仲間の姿が過る。
バカだなあと笑い合っていたくても、今はたった一人。
「ホント馬鹿だね。こんな肝心な事忘れてたなんて。」
彼女は呟いていた。
「そんなに嫌いだったなら、私を囮にすれば良かったんだよ。」
決死の覚悟を整えて。