第3章 命懸け
「何故ここにいる。」
まるで知人の様な言い方に動揺する彼女。
勿論この人物像に覚えがある訳ではない。
相手はおそらく玄界から遠征に来た玄界の兵。
そして彼女はずっと近界で戦わされてきた兵。
絶対に接点などあるはずがない。
それでもそんな言い方をされては気になってしまうのが自然な事であった。
彼自身も、近界で知り合いに会うとは絶対に思ってもいなかっただろう。
分かっていたからこその疑問だったのだと。
互いに不可解でならなかった。
何故。
しかし、周囲から近付く気配に気伏せすればトリオン兵に囲まれる。いつまでも考えている事など出来ない。この場は戦場なのだ。
ふうっと一息吐くと平常な心持ちに切り替える。
数要員とはいえトリガー使いを倒した直後であったはずなのに、疲れなど微塵も感じさせない。手に持つ光の鞭を振るえば急所を的確に定め斬撃を喰らわせる。
巨体は微量の時間差とともに呆気なく崩れ落ちた。
そして彼もまた、無駄のない鮮やかな剣さばきでトリオン兵を仕留める。
そんな日常の様な戦いの後、彼女はとても冷静だった。
やはり自分は国に閉じ込められていた。他国に、ましてや玄界の兵が自分を知っているとは到底思えない。人違いであると。
問題なく日課をこなせば、動揺してしまった疑問にも冷静に対応できる。
それが彼女の答えであった。
「玄界の兵の知り合いなんてここにいるはずがありません。」