第7章 Blame
ヴィンセントの唇が離れ、再び見つめ合うと、二人照れながら小さく笑った。
私の頭を優しく撫でる彼の表情は、微かに微笑んでいるような、そんな気がした。
「君が好きだ、シャロン……」
「ヴィンセント……私も、好き」
思いを口にし、ぎゅっと彼の身体を抱きしめると、私の髪に小さな花が咲く。
「あ」
「あっ、やだ、恥ずかしい……」
初めての恋心を制御できず、思いが花になり咲き誇る。
「愛らしい花だ」
「私の気持ち」
ヴィンセントは微笑んで、再び私に口付けて髪を撫でた。
「……順序が少し……おかしくなってしまったな」
「愛に決まりなんてあるの?」
「……尤もだな」
このまま少しの間、二人で月を見上げながら身を寄せ合った。
期間限定の恋。傷つく事を知りながら、愛し合うことをやめられなかった。
「ねぇ、ヴィンセントのお父様って、とっても優しいのね」
「どうした、突然……?」
「家族って、いいね」
「なるか? 家族に……」
風が彼の髪を揺らす。優しい微笑みが私の胸を切なく締め付けた。
家族になれたら楽しいだろうな、怯えて暮らすこともなくなるんだな、と思うけど、私にも家族がいないわけではない。
「ふふふ。嬉しいけど、私にも育ての親ならたくさんいるから」
「シャロン……」
「お互い、家族と一緒に居られるなら、そのほうがいいわ。ヴィンセント、グリモアさんの側を離れちゃだめよ」
先程のグリモアとの会話が気になって、つい忠告をしてしまう。
実の両親と一緒にいられる幸せ。私にはもうないそれを、彼には大切にしてほしかった。
「それでは……私が故郷へ帰るその時までは……君の側にいてもいいか?」
「ヴィンセント……ありがとう」
私の孤独を癒してくれて。
だけど期間限定の恋は、思っていた以上に切なかった。
あれからもう毎日のように共に過ごした。一族の皆も、もはや私を止めることはしなかった。彼といることで守られていることも事実だったから。彼にかつての無礼を詫びてくれて、私たちはもう誰にも縛られることなく逢瀬を重ねることができた。
けれど、ある日から、彼の口数がそれまで以上に減ったんだ。私は、その彼の寂しげな表情から別れの時が近づいているのだということを感覚的に悟った。