第6章 finale
消極的に彼は言う。彼女の安全を考えるなら、神羅の中のほうが命の危険はないだろう。比較してどちらが安全とは言えないが、彼にとっては彼女が辛い思いをしたという事実が罪なのだ。
「そんなことない……。確かに辛い思いもしたけど、あのままでいたら、世界がこんなに広いことも知ることができなかった。解放されたから色んな人にも出会えたし、あなたとも再会出来たのよ」
彼女は自分を責めがちになるヴィンセントの手を取って、微笑んで見せる。
「……あのまま神羅にいても、今頃ジェノバの操り人形になっているわ」
「……すまない……シャロン……」
「ヴィンセントのせいじゃない。むしろ感謝してるの、あなたと出会えた事。色んな感情を知り、色んな体験をした。その全てが今の私に繋がっているのだから」
シャロンの言葉で罪が消えるわけではない。しかし、ヴィンセントにとって彼女の微笑みは彼の罪に抉られた傷口を癒す特効薬だった。
眼差しが交差し、止まった秒針をシャロンが再び刻ませる。
「ねぇ、私たちには力がある。私たちが、戦わなくてはならない……そうよね」
「……今後どうするか、決めたのか」
シャロンは深く頷き、息を整えて応える。
「あなたにお供させてもらうわ。今の私なら、足手纏いにはならないはずよ。それにあなたの仲間……あなたが信頼する人だもの、きっと希望を見せてくれるわよね」
「……ああ。彼も訳ありの曲者だが、計り知れない力を持っている」
シャロンは微笑むと、彼の瞳を見つめる。彼と共にいられる喜びの中に、世界を救う仲間としての決意を込めた強い眼差しだった。
「……それじゃあ、支度が出来たら出発するか」
「わかった。すぐに支度するわ」
「シャロン。……ありがとう。信じてくれて……。後悔させないと……約束しよう」
ああ、そうだった、と彼女は思い出す。彼は時々、突然照れ臭い台詞を当たり前のように言ってしまう人なのだ。
「私も。何があっても貴方を守るわ」
「……こういう時は、男を立てるものじゃないのか?」
「そうかもね。でも、もう大人しく守られ役になる私ではないわ」
「シャロン……。実際、厳しい戦いになるのは必至だ……。いざという時は……」
「言わないで……。わかってる。何が起こるかわからない、だけど、私はあなたを精一杯守るから……」