第6章 finale
彼はシャロンの体を抱き寄せ、マントに包む。
泣いているのを見られたくない。涙をこらえる姿がそう言っている気がしたから。
ヴィンセントが胸に微かに重みを感じると、マントの中からシャロンの小さな泣き声が漏れてきた。
彼女の我慢しようとする健気な姿は、彼にどうしようもない愛おしさを感じさせた。
ヴィンセントは、シャロンが落ち着くまで彼女をそのまま包んでやった。
「……もう大丈夫。ありがとうヴィンセント……。ごめんね、服、少し濡れてしまったかも」
「いいんだ。そんなことは……気にするな」
もう一度抱き締め、頭を撫でてやる。
確かにシャロンは強い女性だ。しかし、守ってやらねば壊れてしまいそうな儚さがある。今、ヴィンセントに護衛という役目を与えられるのは彼女しかいないのだ。
「シャロン……」
ヴィンセントが改まってシャロンを見つめる。
彼の優しさの中から少しの厳しさを感じ、彼女は神妙な面持ちで首を傾げる。
「どうしたの?」
「もう一つ……君に、見ておいて欲しいものがある……」
「うん……」
返事を聞くと、ヴィンセントは背を向けて横目でシャロンに目配せする。
「少し、離れていてくれ……」
シャロンが言われた通り二、三歩下がりヴィンセントを心配そうに見つめる。
彼女が離れた事を確認すると、ヴィンセントがガントレットを振る。その瞬間少しの衝撃が走り、瞬きをすると彼は獣の姿に変身していた。
「ヴィンセント……?」
名を呼ばれると、獣は振り返り、距離を保ったままシャロンの次の反応を待っていた。
彼女はその姿に見覚えがあった。
「あの時の……やっぱり……ヴィンセントだったんだ!」
シャロンが彼に駆け寄り、毛並みの揃った胸に抱きつく。
ヴィンセントは彼女の抱擁に身を任せていたが、暫くして変身を解いた。
抱きついたままの腕が次第に緩む。
「……驚かないんだな……」
「驚いてるわ」
「私が……怖くはないか?」
「平気よ。ヴィンセントはヴィンセントだもの。どんな姿になっても」
ヴィンセントがフと息を漏らした。
「やはり、君は変わらない……」
抱きしめられたまま変身を解いたヴィンセントは、衣服がはだけ、鍛え上げられた青白い肌が覗く。
他人には見せないその無防備な姿は、彼からの信頼の表れだった。